むかしむかしのお話。
むかしむかし あるところに おくびょうな王さまが住んでいました
王さまはとっても怖がりで いつもいろんなことがこわいとおもっていました
天気がわるくなっては雨や風をこわがり そとに出ればまものがおそってくることがこわいのです
いつもおびえてくらしている王さまは ある日ふしぎな宝石をみつけました
それはそれはきれいな宝石で 王さまはまいにちその宝石に その日どんなこわいことがあったかをはなしかけました
するとしばらくして その宝石が王さまにはなしかけてきました
「いろんなこわいものから、あなたをまもってあげましょう」
まず王さまは 雨や風がこわくないようにがんじょうなお城をつくってもらいました
こわいまものにおそわれないよう つよい兵隊をだしてもらいました
そのがんじょうなお城にすんで ようやく王さまはあんしんしました
こわいものからまもってくれる宝石を たいせつにたいせつにしました
宝石も 王さまがたいせつにしてくれるかぎり どんなこわいことからも王さまをまもってくれました
こうして こわがりな王さまときれいな宝石は こわいものがないお城のなかで しあわせにくらしました
「・・・・・おしまい」
「えー!?」
少女が話し終えたところで、抗議の声があがる。
まだ子供と呼んで差し障り無い年齢の幼子が不満げに唇を尖らせた。
「へんなの。そとに出ないで、ずっとほうせきといっしょにすんでたの?」
「ええ、ずっと宝石と一緒に、お城の中で暮らしたの」
答える少女の年の頃は、12,3歳といったところだろうか。
少し困ったように眉を下げている。
「おそとのほうがぜったいたのしいよ!おねえちゃんともあそべるし!」
無邪気に言い重ねる幼子に、少女は微かに驚いたように眼を瞬かせた。
そして、幼子に向かって笑いかける。
「そうね。お外の方が、楽しいものね」
「うん!ねぇ、向こうのおがわにいこう、おねえちゃん」
昔話の話よりも、身体を動かしたい年頃なのだろう。
少女の手を引いて近くの小川を指差す幼子に誘われるまま、少女は立ち上がる。
「お外の方が…楽しい、ですよね」
ぽつりと少女が零した呟きは、幼子が重ねて少女を呼ぶ声に掻き消された。
むかしむかし では無いけれど
ほんの少し、昔のお話。
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